
なぜ今ご当地食品なのか — トレンドと市場データで読み解く産地直送人気の理由
食品EC市場が前年比17%増。産直ECの広がり、能登の応援消費、物流の課題。データと現場から、ご当地食品が選ばれ続ける理由を読み解きます。
全国のスーパーに並ぶ食品の多くは、産地から出荷され、複数の卸を経て店頭に届きます。その流通の外側で、生産者から直接届く食品を選ぶ人が静かに、しかし確実に増えています。なぜ今、ご当地食品や産地直送がこれほど注目されているのか。市場データと消費者の実態から読み解いていきます。
数字が示す「ご当地食品」の実力 — 市場データで現在地を確認する
まず数字から見てみましょう。経済産業省が2025年に公表した調査によれば、2024年の日本国内における食品EC市場(BtoB取引含む)は41兆5,859億円、前年比17.0%増という高い成長率を記録しています。
EC市場全体の成長率が5.1%増にとどまる中、食品分野だけが突出して伸びている。この差はどこから来るのでしょうか。
背景の一つとして挙げられるのが、産地直送プラットフォームの普及です。生産者と消費者をつなぐ産直ECサービス「ポケットマルシェ」の調査では、登録生産者のプラットフォーム経由の売上割合が前年比1.5倍に増加したことが報告されています。また、産直EC全体の流通総額は2020年比で20倍規模にまで拡大しています。
食品ECという大きな波の中で、産地直送・ご当地食品はその中核を担う存在になっています。
なぜ消費者は「遠回り」な産地直送を選ぶのか
スーパーなら今日買えるものを、なぜわざわざ産地から取り寄せるのか。消費者の選択には、いくつかの明確な理由があります。
完熟収穫という、流通では実現できない鮮度
通常の市場流通では、作物が完全に熟す前に収穫して出荷する「青もぎ」が一般的です。輸送中の品質劣化を見越して、早めに摘み取る必要があるためです。産地直送では流通経路が短いため、生産者自身が「いちばんおいしい状態」を見極めてから収穫し、そのまま発送できます。届いたときの味の違いを経験した人が、リピート購入に至るケースが多いのはこのためです。
生産履歴の透明性と食の安全
「誰が、どこで、どのように育てたか」を知った上で購入できることは、産地直送の大きな価値です。農薬の使用状況、肥料の種類、栽培の哲学まで、生産者が直接発信できる産直ECでは、食の安全に対して高い意識を持つ消費者の信頼を得やすくなっています。食品のサプライチェーンが複雑化する中で、透明性そのものが商品の価値になっています。
スーパーでは出会えない希少な地方食材
市場流通に乗るためには、一定の生産量と規格の統一が求められます。そのため、収穫量の少ない地域固有の品種や、手間のかかる伝統野菜は流通に乗りにくく、地元でしか手に入らないものが多くありました。産直ECによって全国の消費者と直接つながれるようになったことで、これらの希少食材が適正な価格で届くようになっています。バイヤーの立場からも、業務用食材の仕入れ先として産地直送を活用する動きが広がっています。
「買って応援」が変えた消費の意味 — 能登の事例から
2024年1月、能登半島を大きな地震が襲いました。全国から支援が集まる中、食の分野でも「買って応援する」という動きが広がり、石川県は同年2月に「能登のために、石川のために 応援消費おねがいプロジェクト」を立ち上げます。
産直ECへの注文が増え、能登かきや加賀野菜を「いつも買う食材」として選ぶ人が現れ始めました。プロジェクトは2026年現在も石川県が継続しており、支援という入口から「この地域の食が好き」という日常の選択に変わっている人も少なくありません。
消費者が「どこから、誰が作ったものを買うか」を意識するようになったとき、ご当地食品は単なる食材を超えて、地域とのつながりそのものになります。
石川県の伝統野菜「加賀野菜」は、その象徴的な存在です。昭和20年以前から栽培が続く15品目の伝統野菜は、地元では「じわもん(地元のもの)」として親しまれてきました。近年は産地直送の形で全国へ届けられ、名勝・兼六園では規格外の加賀野菜を活用したメニューを提供するSDGsとの連動も生まれています。
生産者にとっての産地直送 — 中間マージンと規格外品の話
産地直送の普及は、消費者だけでなく生産者側にも大きな変化をもたらしています。
市場や卸売業者を介さないことで、流通マージンの流出を防ぎ、生産者が得る手取り収益を増やせます。自ら価格設定の主導権を持てることは、天候不順などのリスクを価格に反映できることも意味します。農業を安定したビジネスとして続けるための基盤が、産直という選択肢によって整い始めています。
また、産地直送はフードロス削減にも実効的です。市場流通では、味や品質に問題がなくてもサイズや見た目の基準から「規格外品」として廃棄されるケースが多くありました。産直ECでは「訳あり品」として適正価格で直接販売できるため、丹精込めて育てた作物を無駄なく届けられます。生産者の収益向上と、持続可能な食料供給の両面に寄与する取り組みです。
課題もある — 物流の「2024年問題」と産直の行方
産地直送への需要が高まる一方で、その物理的な基盤である物流は深刻な課題を抱えています。
2024年4月から適用されたトラックドライバーの労働時間規制(いわゆる「物流の2024年問題」)により、輸送能力の低下が現実のものとなっています。NX総合研究所の試算では、何も対策を講じなければ2024年度に輸送力が14%不足し、2030年度には34.1%、約9.4億トンの荷物が運べなくなると予測されています。
農水産品は長距離輸送・小ロット多頻度・コールドチェーン管理という特性から、この問題の影響を特に受けやすい品目です。
ただし、課題への対応も着実に進んでいます。配送期間の延長に備えた鮮度保持フィルムの技術革新、物流拠点の予約管理をデジタル化するシステムの導入、トラックから鉄道・船舶へ輸送手段を切り替えるモーダルシフトの推進——これらが組み合わさることで、産地直送の生命線である鮮度を守りながら物流を持続させる仕組みが整いつつあります。
それでも、ご当地食品が選ばれ続ける理由
市場データが示す成長、消費者の意識変化、生産者の経営改善、そして地域との新しいつながり。ご当地食品・産地直送の人気は、いくつかの要因が重なって生まれています。
共通しているのは、「誰が作ったか」「どこから来たか」を知ることへの欲求です。均質化された流通の外側に、豊かな食の選択肢があることに気づいた消費者は、もうその前には戻りにくい。その変化が市場を動かしています。
ご当地食品・産地直送に興味を持ち始めた方は、ぜひまちもぐをのぞいてみてください。
参考資料
· 経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査報告書」(2025年)
· 矢野経済研究所「産直農産品市場に関する調査」(2023年)
· 富士経済「産直EC市場調査」
· 株式会社雨風太陽「ポケットマルシェ登録生産者利用実態調査」
· NX総合研究所「物流の2024年問題に関する需給推計」



